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e-種や|野菜種、花種と苗の三重興農社

春の到来を告げる花

最近バイオ技術と言う言葉をよく耳にするようになりました。
これは自然界では通常行われることのない事を人為的に行い我々人間に
有利に利用できる物を作り出す技術として注目されています。

しかし反面将来的に安全性、倫理的に疑問視されている問題も多く指摘されています。
バイオテクノロジー(バイテク)もウイルスフリー化、種属間交配、遺伝子操作と様々な技術があり、
研究機関では日々研究が重ねられています。

私たちが日々口にする野菜にもバイテクを利用した種苗から生産したものも
広く出回っています。そのもっとも進んだ技術がウイルスフリー
(ウイルスに感染していない種苗)化です。今回はウイルスフリーの紹介と現状を取り上げます。

1. ウィルスとは

人間もウイルスに冒されると風邪等の様々な病気になります。ウィルスとはその様々な病気の原因を引き起こす目には見えない非常に小さな生き物です。植物においてはウイルス病に感染すると、葉がモザイク状になったり、ちぢれたりして生育が悪くなり収量が低下します。植物ウイルスは主としてリボ核酸(RNA)とたんぱく質が結合した核たんぱく質の巨大分子ですが、その大きさは20~1000nm(1nmは百万分の1mm)程度と非常に小さく電子顕微鏡でしか見ることが出来ません。カビやバクテリアよりもはるかに小さい病原体で、人工培養が出来ず生きている細胞中でしか増殖できません。この小さな病原体が植物に寄生、増殖することにより様々な病気を引き起こします。

しかし植物がウイルス病にかかっても、それを治療する有効な農薬は未だに開発されておらず、ウイルス病になった株を早期に抜き取り、その蔓延を防ぐしか方法のない大変厄介な病気です。幸い植物ウイルスは特殊な例外を除いて、種子には侵入しないため、種子繁殖性作物(一般に種子として売られている作物)では種子を経ること(世代交代する)でウイルスが除去されて
きました。しかし作物の中には種子の出来にくいもの(多くのイモ類やニンニク、ラッキョウ等)、できても遺伝的に固定していないので種子では品種の性質が変わってしまうもの(多くの果樹類、イチゴ、カーネーション、キク等)があります。これらは長年にわたる栄養繁殖(種子からでなくイモ、株、苗からの繁殖)が長く続けられたためにウイルスに感染していない個体がなくなり、品種の劣化が進み産地の消滅を招くことさえあり、作物からウイルスを取り除くことは重要な課題でした。

2. ウィルスフリー化の歴史

「茎頂の培養によってウイルスに感染していない苗を作り出しえるのではないか」との最初のきっかけをあたえたのはアメリカのホワイト(1943)で、彼は「タバコモザイクウイルスに感染したタバコの根端にはウイルスは存在していないようだ」と報告しました。

 

その後実際にウイルスフリー苗を作り出したのは、フランスのモレル(1952)らです。彼らはダリアモザイクウイルスに感染していたダリアの生長点を切り出して培養し、モザイク症状の消えた苗を作り出しました。このモレルらの研究が刺激となり1950年後半から1960年にかけて、ウイルスの感染に困っていた多くの作物でウイルスフリー化が相次いで各国で試みられました。

わが国では農事試験場(当時)の病理研究室グループがこの課題に取り組み、1957~1969年の間にサツマイモ、ジャガイモ、イチゴ、カーネーション、キクなどを用いて茎頂培養によるウイルスフリー苗作成技術を確立(森ら1969)し、この成果はその後のウイルスフリー苗作出の中核となりました。野菜類についてはその後、野菜試験場(1975~1979)で大沢らがサトイモ、やまいも、ラッキョウ、ニンニク、イチゴ、坊主しらず葱等で実用的なウイルスフリー苗作出技術の開発に取り組み、現在もその当時の成果が活用されています。

3. ウィルスフリー作出技術

ウイルスフリー苗の作出方法を簡単に説明しましょう。

2の歴史にて茎頂培養という言葉がでてきましたが、茎頂とは植物の生長点の先端0.2~0.5mm程度の組織を言い、植物体がウイルスに感染してもこの部分だけはウイルス粒子が侵入していない組織なのです。これを切り出して特殊な培地上で培養する事を茎頂培養と言い、この技術を利用してウイルスフリー株を作り出します。茎頂にウイルスが存在しない仕組みについては、いくつかの説がありますが、現在最も有力なのは「外部から感染したウイルスが細胞間連絡によって次々に周辺の細胞に感染を広げて行く速度に比べて、茎頂分裂組織での細胞分裂の速度のほうが速いので茎頂はウイルスに感染されていない」とする説です。

茎頂培養はどの作物でも同じと言うことではなく、植物の種類や切り出した茎頂の大きさにより難易度は異なります。
培養によってウイルスフリー化された株を外部とは隔離された網室等で順化(環境に慣れさせること)、鉢上げ等の作業を経て販売されるウイルスフリー苗を大量増殖します。茎頂培養も作物による難易度の差がありますが、増殖にも差が大きく、実際にはウイルスフリー化は出来てもコスト面等で商品化の難しい作物もあります.(こんにゃく、ショウガ等)

4. ウィルスフリー苗の普及

ウイルスフリーの歴史、技術等を述べましたが現在どのような作物に利用されているのでしょうか?ウイルスフリー苗及びメリクロン苗として販売されている主な野菜及び花き類を以下記します。
〈野菜〉
バレイショ、イチゴ、サツマイモ、ナガイモ、ニンニク、ヤマトイモ、ジネンジョ、ツクネイモ、ワサビ、ワケギ、ウド、食用キク、サトイモ、坊主知らずネギ、(ショウガ、ミョウガ、コンニャク、アスパラガス)など
〈花き〉
ラン類、カーネーション、カスミソウ、ユリ、キク、スターチス、マーガレット、ガーべラ、デルフィ二ウム、リモニウム、リンドウ、サイネリア、セネシオ、グラジオラス、アマリリス、ブーバルシア、スモークツリー、(シクラメン、アジサイ)など

普及状況についての統計的な資料はありませんが、産地に関してはバレイショ、イチゴ、サツマイモ、ユリ、キク、カーネーションなど
のほぼ100%、やまのいも類は地域格差はあるもののかなり普及しているといえます。

5. ウィルスフリー苗の効果

作物にウイルスが侵入することで葉にモザイク、萎縮が発生し光合成能力を弱め、収量の低下を招くことは、前記いたしましたが、ウイルスフリー化することで、作物本来の能力を発揮し収量増になります。その他に作物によるウイルスフリーの効果の例を記します。

カネコ種苗(株)カタログより
サツマイモ(サツマイモ斑紋モザイクウイルス)
1. 帯状粗皮症(イモに帯状の退色したしわが入る症状)および退色症がなくなり表皮がきれいになり、紅色が濃く、鮮やかになります。
2. イモの肥大が良くなり、収量が20~30%アップします。
3. イモが短めになり、曲がりが少なく、形状が安定し秀品率がアップします。
4. 貯蔵性が良くなります。

ヤマノイモ(ヤマノイモモザイクウイルス:ヤマトイモ、ジネンジョ、ツクネイモ)
(ヤマノイモえそモザイクウイルス:ナガイモ)
1. 生育が旺盛になり天候不順などの不良環境下においても肥大力がある。
2. 優良系統選抜によりもののバラツキが少なく、品質がよく秀品率が高まる。
この様な効果が得られるのは、バイテク技術だけでなく、種苗メーカーが品種の優良系統の選抜をし、増殖することににより品質的に安定したウイルスフリー苗を提供しています。

6. おわりに

ウイルスフリー苗はこのように、栄養繁殖性植物の良品生産の為の実用的に役立つ商品として、近年は産地のみならず家庭菜園にもかなり普及してきました。

ウイルスフリー苗はウイルスを除去することにより、作物の持つ本来の能力を引き出し、秀品率の高さ、収量増につながりますが、ウイルス病に抵抗力があるわけでなく、一般ほ場で栽培することにより、アブラムシ等ウイルスを媒介する害虫によりウイルスに再感染し、作物、品種により効果の差はあるものの、年を経るごとにその効果は確実に薄れて行きます。

このように、栽培地でのウイルス感染防止は難しいため、利用の進んでいるイチゴ、サツマイモ、ナガイモなどの産地では、毎年又は2年に1回ウイルスフリー苗に更新しているところが多くなっています。(毎年更新がベストですが、コスト面より)

現在種苗メーカー等の増殖技術も高まり、以前と比べてコスト的にもかなりお値打ちになってきました。家庭栽培の場合は、毎年のウイルスフリー苗の購入がベストです。
出来たものの品質の良さを実感することが出来るでしょう。

種苗メーカーでは、地域の生産者が要望する系統や、品種をより早く、確実に増殖し、普及することを目指し、日々研究に努めています。
今後もこの研究の成果でより多くの作物、品種にウイルスフリー苗が開発され、私達のより身近な商品として、使用することになるでしょう。

 
 引用文献、資料
 植物バイテクの基礎知識  大沢勝次著
 植物バイオテクノロジーの可能性  
          カネコ種苗 林 義明著